現日本プロ野球コミッショナーの加藤良三氏は2001年から7年間、在アメリカ合衆国特命全権大使を務めた。65年に外務省に入省以来、既に4度目の在米勤務で、共和党を中心にアメリカの政界に知己も多かった。小泉・ブッシュ両政権の下、一貫して日米関係強化に貢献した人物だ。
但し、2006年に小泉首相が退任し、2007年に民主党が上下院で多数派となり、ブッシュ大統領がレームダック状態に陥ったのが不運だった。共和党が多数派の時代には見向きもされなかった「慰安婦」決議案が、マイクホンダら民主党議員の暗躍で下院決議案にかけられたのが運の尽きだ。加藤大使は反論をぶち上げたが、コレが頓珍漢だった。
「ホンダ議員の対日批判は事実に反している」、ここまではいい。あとがいけない。「日本政府はこれまで幾度も謝っているではないか」「日本政府と日本国民は『アジア女性基金』を通して被害者の救済事業を進めたではないか」「慰安婦問題は教育の場でもちゃんと取り上げている」おいおい。
もちろん一連の発言は、外務省のホームページにも掲載される日本政府の公式見解だ。従い、加藤大使ひとりを悪者には出来ない。しかし最も間抜けなタイミングで、ホンダ議員の主張を裏付ける格好になってしまった。そして、反省の素振すら見せず、さらに痛恨の失敗を重ねる。
加藤大使はナンシーペロシ下院議長を含む議会幹部宛に手紙を送り、そこにこう記した。「『慰安婦』決議案可決は日米両国の友好関係を阻害するだろう。可決されれば、米国の対イラク政策を支持する方針を、日本政府が変える可能性もある」この恫喝口調がメディアに漏れて轟々たる非難を呼び、議員たちの態度を硬化させた。結果的に決議案は「可決」された。
さて、日本プロ野球機構の統一球変更問題が露見するや、加藤コミッショナーは「知らなかった」「隠蔽の意図はない」と、拍子抜けする発言を連発して世間を呆れさせる。そもそもシーズンオフの余興に過ぎないWBCを過大に重視して、統一球採用を強引に進めた張本人ではなかったか。名誉職とは云え、仮にも組織の長であれば、それなりの見解を示すべきだ。ひたすら逃げる姿勢はみっともない。説明が説明にならず、反論も反論になっていない。
もっとも、実社会の身の処し方には縁遠い人なのだろう。無責任と恥知らずは、まさに外務省生え抜きの人材ならではだ。彼らに責任感や国の名誉を思う気持があれば、わが国が性犯罪国家の濡れ衣を着せられるワケがない。