2011年11月08日

TPP:野田は低姿勢を貫くのか!?

かって日本経済は恐ろしく強かった。85年のプラザ合意で急速な円高・ドル安が進んだが、怒涛のような対米輸出は一向に減らなかった。製品の高付加価値化であっさり円高を乗り切ってしまったのだ。根を上げたのがアメリカだ。自分たちが双子の赤字問題で悩むのは日本のせいだと非難しはじめた。対日貿易の不均衡を是正せよ、早く云えば、日本よ、アメリカ製品をもっと買え、と騒ぎ出した。

 

89年、アメリカの世論に押されて、当時のブッシュ大統領が日本政府に働きかけ、日米構造協議Structural Impedements Initiativeが始まった。これだけ自国が赤字になる一方で日本に黒字に貯まるのは、両国の商習慣や流通形態が違い過ぎるからだ。互いに諸制度を刷り合わせて日米社会の共通項を増やせば、相互に貿易が拡大し均衡する筈だ。それがアメリカの主張だった。

 

アメリカは真面目に日米構造協議に臨んだ印象がある。自由競争を前提としたアメリカ市場の開放的な構造と、閉鎖的な日本市場の比較分析を前面に出し、わが国の複雑怪奇な流通が外国製品を締め出していると正面から論じたのだ。さらに閉鎖的な商慣行で、どれだけ日本の消費者が損をしているか、詳細且つ正確に分析してみせた。同時に日本国民が享受可能な市場開放メリットを分かり易く説明していた。こういうアクションを取れば、貴国の国民が喜ぶではありませんかと云う論法だ。いかにも説得力がある。

 

情けなかったのは日本政府の対応だ。アメリカの市場構造に関する分析もしなかったし、実際、具体的な対米要望事項は殆ど何も示さかった。ただ単にアメリカ人はもっと貯蓄すべきだとか高等教育に力を入れろとか、その程度の抽象論を述べただけだった。どう見ても戦いになっていなかった。戦略的にぶつかってくるアメリカ政府相手に、日本政府は丸腰でふらふらしていた印象しか残っていない。

 

もっともこう書くのは、当時既にアメリカに住んで現地のニュースで日米構造協議の進展を知ることが出来たからだ。日本にお住まいだった皆さんにとっては、日米構造協議について余り記憶がない方も多いだろう。わが国のメディアも勿論、日米構造協議の概要は報じていたが、内容はかなり曖昧にぼかしていた。アメリカが指摘する商習慣や税制の問題点などを解説して、日本政府やスポンサー企業を怒らせるのを避けたのだろうと推察する。

 

さて、あれから約20年の歳月が過ぎて、TPPが話題となっている。アメリカの現地ニュースには一向に登場しないので、かっての緊迫感は感じられない。アメリカ政府も、日本を標的に市場開放を迫ると云う気迫に欠けている。あればメディアを通じて、日本国民にとってTPPが如何に素晴らしいか広報宣伝に徹している筈だ。

 

しかし熱意があろうとなかろうと、アメリカが日本市場攻略の意志を持っているのは明らかだ。困るのは今回もまた、戦略的に臨むアメリカ政府に対し、日本政府が丸腰でふらふらしていることだ。如何にして日本にとって有利な条件を積み上げるか、何の戦略もない。第一、政府与党たる民主党には確たる国家観すらない。交渉らしい交渉になるわけがない。ただ、相手が要望を示す度に、はいはいと頷くだけになってしまう。

 

 

 

 

ちなみに日本側が議論する意志すら見せないためか、日米構造協議は94年を境にして、アメリカ政府が自国のリクエストを一方的に纏めた「年次改革要望書」になった。今は「日米経済調和対話」と云うちょっとヘンな名前になったが、相変わらずアメリカ側の要望を細かく列記している。堂々としたもので、在日アメリカ大使館のウェブサイトに2011年度の日本語仮約(リンク)まで載っている。内容はTPPとほぼ共通だ。

 

野田がTPP交渉参加に前向きなら、アメリカが公開しているリクエスト内容に対して、日本政府として如何なる立場を取るつもりか、先ず国民に説明すべきだ。まさかとは思うが、オバマさんの顔をみながら、ただ、はいはいと頷くだけじゃ問題だ。海外で低姿勢なんて貫かれちゃ困るのだ。

 

 

 

 

 

 

posted by yohkan at 12:19| Comment(0) | TrackBack(0) | TPP | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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