イチローはメジャーリーグのスーパースターだ。しかも地域性が極めて強いスポーツなのに、数少ない全米レベルのスターのひとりだ。だから昨日は、イチローのニューヨーク移籍が衝撃的な話題として大々的に報じられた。
実際、イチローの記録を振り返ると、その偉大さに圧倒される。MLBに移籍直後の2001年、アメリカリーグのMVPと新人王、盗塁王に輝いた。オールスター戦選出とゴールデングラブ賞獲得がそれぞれ10回。昨年から成績は下降気味だが、一昨年まで毎年3割以上の打率を維持し、生涯打率は何と.322にも達する。しかし、これだけ立派な成績を残しながら、ワールドシリーズ出場の経験がない。移籍によって、ついにこのチャンスを掴むかも知れない。こう説明する野球コメンテータは、イチローの新天地における活躍を信じて疑わない様子だった。
ヘルメットを取ってファンに挨拶するイチローの頭には白髪が目立つし、打撃も脚力にも年齢による衰えは隠しようがない。しかし指折りの野球センスと豊かな経験を持つイチローだ。是非、ヤンキースの一員としてワールドチャンピオンになって欲しい。偉大な選手であればこそ優勝に貢献して、偉大なチームの歴史を華やかに飾って欲しい。
さて、イチローや松井やダルビッシュの話になると、必ず日本が話題になる。例えばイチローが野球にかけるストイックさは、日本古来の武士道精神と関連ありと解説が入る。ダルビッシュが登場すれば、このカッコいい若者が如何に日本で熱狂的に支持されてきたか、詳しく紹介される。
MLBには諸外国の選手が所属する。その出身地は中南米からアジアまで広範囲に及ぶ。ところがふと気がつけば、日本以外の選手はさほど故郷の国が話題にならない。なぜ、わが国の選手だけが、Japan、Japanと半ば特別扱いされるのか。
もちろん話題の日本人選手には日本のメディアがついてくるし、テレビ局が巨額の放映権料を払う。日本人観光客が球場まで足を運ぶ。日本の大手企業が広告枠を買う。こうしたジャパンマネーの力もあるだろう。しかしつらつら考えてみると一番の理由は、日本が憧れの国だからだ。アメリカは日本が大好きなのだ。
嘘じゃない。アメリカ人の多くは、頭がよくてお洒落で礼儀正しくて心優しい日本人がとても好きだ。三千年近くもの歴史を持つ皇室の存在や豊かな伝統文化と、世界最先端のハイテクが共存する日本社会に魅惑されている。日本が発信する個性的で未来志向のライフスタイルを若者たちが追いかける。しかも日本はかって太平洋を挟んで雌雄を決した強大な敵国でありながら、今は肝胆相照らす真のトモダチだ。こんな国は他にない。その上、アメリカの国技たる野球を野球道に昇華させ、誰も真似できない個性を放つ大選手、イチロースズキまで誕生させた。日本を好きにならずにゃいられない。アメリカ人の気持ちがよく分かる。