TPP交渉参加について安倍首相に一任する旨、自民党の役員会が了承した。首相は、農業や農村の事情に詳しい自民党の意見を聞き、対策をきっちり練るだろう。農業従事者を支援するのは勿論だが、金銭的な援助だけでなく、近代化を促進して農業の明るい将来像を描いて欲しいものだ。
日本の農業には衰退産業のイメージが付き纏うが、悲観的になる必要はない。温暖な気候と綺麗な水と豊かな土壌がある。狭い国土と云うが、米中露あたりと比較するからだ。欧州諸国と比べれば遜色のない国土面積を有する。山岳部が多く平地面積は少ないが、わが国には山々を切り開き美しい田園風景を生んできた歴史がある。
日本の農業生産額は約8兆円と世界のトップクラスだ。浅川芳裕氏の名著「日本は世界第5位の農業大国」(講談社α新書)によれば、中国、アメリカ、インド、ブラジルに次ぐ規模だ。この説には日本の生産者価格が高いから金額が膨れると云う反論もあるが、国際標準価格で計算し直しても第9位。前述の4カ国に加え、露仏独豪が日本をやや上回るに過ぎない。
それなのに、なぜ農業の弱さばかりが強調されるのか。単純な話だ。農水省の発表する食料自給率が40%にも満たないからだ。但し、廃棄分まで含めて分母を膨らませるカロリーベースの自給率計算はかなり変則的で、世界中見回しても同様の計算式を用いる国はない。予算確保のために危機感を煽るのかと批判されたせいか、今や同省のウェブサイトにすら、金額(国内生産額/消費額)ベースだと自給率が70%に達すると書かれている。
農業従事者の5人に3人が高齢者と云われる環境でも、驚きの世界第5位だ。明るい未来を信じて若者たちがどしどし就業し、近代化を後押しする企業資本の進出があれば、農業はとんでもなく強くなる。わが国の優秀な頭脳と高度技術を生かせば、自動車やITと並ぶハイテク産業に生まれ変わる。高品質で安全な日本の農産品は国際市場で引っ張りだこになるだろう。
いつまでも社会主義的な農政を続けていたら、全てが腐る。日本の農業再生に向け、今がチャンスだ。TPP交渉参加を契機にした安倍政権の政策に期待したい。