オバケは怖い。ぞっとする。とは云うものの、実態がよく分らない。幽霊や妖怪の存在を100%否定する気はないが、恐怖心が幻覚を見せることもある。幽霊の正体見たり枯れ尾花。疑心暗鬼になれば、風になびく枯れススキでさえ、恐ろしい幽霊と化す。正体を知れば、笑い話だ。
TPPもその類いじゃないのか。TPP陰謀論者や反対論者は、医療保険制度が壊滅する、外国人労働者が怒濤の如く押し寄せると叫んで、善良な日本国民を脅す。果ては民主主義の崩壊だ、日本国家の滅亡だと大袈裟に喚く。これを真に受けて、無闇に脅えたり疑心暗鬼になっている人々も多いが、先ずは正体を知る事が大事だ。
TPPの基本的な考え方は、外国企業への差別の廃止による交易の促進だ。国によって閉鎖的な商慣行や輸入制限があれば、輸出企業が不利益を被る。あの手この手で外国の輸入品を自国市場から締め出せば、消費者が不利益を被る。だから価値観を同じくする環太平洋地域の国々で共通市場を作り、互いの垣根を低くして経済を活性化させようと云う健全な趣旨だ。
心配なら、アメリカとカナダとメキシコが20年前に結んだ北米自由貿易協定、即ちNAFTAを見るがいい。関税を廃し交易ルールを共通化して、域内貿易を拡大する試みは成功した。企業や消費者はより豊かになった。その一方で、カナダの国民皆保険制度はびくともしていないし、メキシコの低賃金労働者がアメリカとカナダの労働市場を席巻した事実もない。不法移民は逮捕されトラックでメキシコに送り返されている。
他にも例えばISD条項に脅える人がいる。しかしこの約束事は、海外の合弁事業が一方的に国有化された場合など、その国で争わずに中立な第三者機関に仲裁を求めるもので、既に数十年前から存在する。そもそもわが国が日本企業を守る為に、各種の経済連携協定や投資協定に必ず入れてきた条項で、今さら何を問題視するのか、さっぱり理解できない。
またTPP参加予定国のGDP総計を見れば日米が90%以上を占めるので実態は二国間協定だと、アメリカの謀略を説く評論家がいる。この主張もおかしい。日米の如き大国は貿易依存度が低いが、小さい国は一様にそれが高い。各国の貿易額をトータルすれば、日米合わせても70%ぐらいにしかならない。オーストラリアやマレーシア、シンガポールはそれなりの貿易規模を有する国々だ。こうした国々との貿易を斬って捨てるのはあまりにも乱暴だ。
つまることろ、既得権益層の農協や医師会はもちろん、人気者の評論家たちがもっともらしいデマを流しつつ、TPPはオバケだと騒いだら、その空気が実情を知らない人々に感染しただけではないのか。まるで、お笑いコンビのペナルティが演じる「オバケの救急車〜♪」だ。次から次へと感染し、多くの日本国民が「オバケのTPP〜、オバケのTPP〜♬」と歌い、胸を叩いて踊っている気がしてならない。ワッキーの定番ギャグを知らない人は検索して頂き度い。笑える。