戦士だって人間だ。故郷に残した妻や子を思えば、命が惜しくなる。そこでかってのローマ帝国は戦士たちの婚姻を禁じた。ところが、掟破りがいた。恋人たちの仲を裂くことは神の名において許さない、こう見栄を切ったバレンタイン司祭は、結婚を望むカップルを教会に迎えてこっそり式を行い、人生の門出を祝福した。これが皇帝の怒りを買って司祭は捕われ、処刑されたのが西暦269年2月14日だ。以来、この日が「愛の日」となった。
聖バレンタインデーは日本にも伝わり独特のスタイルを生んだ。理由は兎も角、女性から男性にチョコレートと贈る日となった。他国では男女共プレゼントを渡し合うし、この日は菓子屋のみならず、花屋も宝飾品屋もレストランも繁盛する。好きな相手も恋人や配偶者とは限らない。小さな子供たちが学校で可愛いカードを作り、帰宅して親に渡す日でもある。こうした率直な愛の表現は日本の風土に馴染まないと、ばっさり切り捨てられた。
ガラパゴス的進化(?)の象徴は「義理チョコ」だ。催淫作用のあるチョコレートを恋人に贈るならそれなりの意味もあるが、職場で全男性社員にバラ撒くのは異常な行為だ。人情味溢れる博愛主義だとしても、そもそもチョコレートを貰って大喜びする甘党の男性陣はそういない。だから、お中元やお歳暮でチョコ詰め合わせは見かけないのだ。それでも一度習慣になれば、もう止まらない。女性は義理と人情のため、チョコを大量に購入する。
聞くところ、チョコレートの年間消費量の3割がバレンタインデー時期に集中するらしい。世の女性たちが企業宣伝やメディアの演出に如何に弱いかがよく分る。まさに菓子業界の爆笑が聞こえるようだ。ついでに云うと、ホワイトデーなる日本の奇習は明らかにこの業界の謀略で、バレンタインデーの売れ残りを処分販売するために設定したと聞く。
「愛の日」を「義理と人情の日」に平然とすり替え、在庫処分の記念日まででっち上げて商品販売に邁進する日本の企業戦士たち。出征前に結婚したくてバレンタイン司祭の下に駆け込んだローマの戦士とは根性が違う。