日本政府がやっとハーグ条約への加盟を表明する。国際間の子供の不法な拉致を禁じた国際条約が発効したのは、今から30年も前だ。年々、国際結婚が増えている以上、条約に加盟するのは当然で、むしろ何をぐずぐずしていたのか、さっぱり理解できない。離婚に際し、片親が一存で子供を母国に連れ去るなどの理不尽が許されるわけはない。
考えるにわが国が躊躇していた理由は、ハーグ条約が前提とする共同親権が、民法が定める単独親権と相容れないからだろう。戦前は父親だけが持っていた親権を、戦後、両親のいずれかが持てると改正したものの、共同親権の概念は欠落していた。これを認めると、相続や戸籍など幾多の関連法にも影響が及び、改正作業が煩雑になるので避けてきたのではないか。政治家や役所は面倒なことは後回しにする癖がある。
しかし必然性もないのに国際社会に背を向け、古臭い国内法にしがみつくのは愚の骨頂だ。最近は「保守」と云う言葉がモテ囃されるが、古い仕来たりを守ればいいってものじゃない。両親が離婚した途端、それまで暮らし馴染んできた国から異国に連れ去られる子供たちの苦しみ。元の配偶者に愛する子供たちを拉致され、二度と会えなくなる悲しみ。こんな悲劇を根絶する、人道的見地に立った取り決めががハーグ条約だ。
この条約加盟と日米同盟強化を絡めた報道もあるが、うがち過ぎだろう。国際結婚の盛んなアメリカでは、より多くの国の加盟を望む声を聞くが、ハーグ条約はアメリカ人のための約束事ではない。国際社会との協調を深め、世界が合理的と認める制度を受け入れようとするたびに、アメリカのブレッシャーが〜!と叫ぶ連中を見ていると、ちょっとなあと首を捻らざるを得ない。
いずれにせよ、安倍首相の英断に拍手を送ろう。これでわが国は拉致国家の汚名をそそげる。