一昨年、統一球を採用するまで、日本プロ野球機構(NPB)では4社のボールが使用されていた。しかもどのボールを採用するか、各球団の裁量に任されていた。規格品だから本来、各社の製品に違いはない筈だが、もちろん若干の差はあり、選手に云わせれば、この球団のボールは打者に有利とか、そんな話もあったらしい。
それで何の不都合もなかったのに、加藤コミッショナーがWBCを前提に、統一球への切換えを強引に主張したと聞く。この話はやや信じ難い。なぜなら、WBCはシーズンオフの余興に過ぎず、アメリカでは巷の話題にもならないことを、元駐米大使が知らない筈はないからだ。
しかも野球の国際化を唱えながら、アメリカと同一仕様のボールを採用すべく働きかけた様子もない。NPBの統一級は牛皮で、大リーグの馬皮と素材が違う。つまり、統一球を押したのは、何か他の理由によるものだと分る。
冷静に考えて、4社の共存体制を1社独占体制にするのは奇妙だ。普通のビジネスなら、あえてその必要がなくても納入業者を複数以上にする。非競争状態を作れば、価格や品質など供給側がやりたい放題になり、仕入側が著しく不利になる。幾らビジネスを知らぬ外務省の役人でも、このくらいの常識がなければおかしい。
米大リーグのボールは、ローリングが1社で独占しているではないか、との指摘もあろうが、これには理由がある。アメリカ企業に均一な商品は作れない。1社でもボールのバラツキが酷くて、来米した日本人投手は誰もが仰天する。こういうお国柄だから、企業数を増やしたら、品質がばらばらになり過ぎて球界が混乱する。致し方なく、1社独占にしているのだ。
さて、4社をミズノ1社に絞った選考課程は知らないが、企業間で大変熾烈な競争があったことは容易に想像がつく。表向きは、品質やコストや供給能力の比較審査だとしても、裏では相当な駆け引きがあったに違いない。競争を排除してプロ野球市場が独占できれば、企業にとってこれほど美味しい話はない。
各社の営業部隊はNPBの幹部を高級料亭に招いて床柱を背負わせ、銀座のクラブを借り切って、とびきりの美人ホステスにお酌をさせたろう。視察と称して海外リゾート地で接待漬けにし、カジノのVIPルームでわざと勝たせたか。もちろん、コミッショナー様には小判入りの饅頭くらいは届けた筈だ。
下司の勘ぐりだが、案外、加藤コミッショナーはコレにころりと参ってしまったのではないか。ミズノ屋、おぬしも悪よのう。ぐふふふ、コミッショナー様にはかないませぬ、な〜んて会話が聞こえてきそうな気がしてならない。