2021年11月18日

紐育の犬も喰わない話

勤務先の美術館から帰宅した妻が目にしたのは、ソファに寝転ぶ裸の夫だった。窓外に広がるマンハッタンの華やかな夜景に、およそ似合わぬだらしない格好だ。

「一日中、飲んでたのね」と、妻はカーペットに転がるバーボンの空瓶を険しい眼差しで睨む。「仕事はどうしたのよ?なぜ、毎日ごろごろしてるのよ!?」

詰問された夫は、ぶっきらぼうに答える。「仕方ないだろ。次々に経歴詐称がバレて、例の法律事務所はあっさりクビになった。そもそも仕事が全然出来ないしね」

妻が慌ててたしなめる。「投げやりになっちゃダメよ。2月の弁護士試験に合格すれば、事実に基づかない情報で誹謗中傷を繰り返す世間のクズどもを見返せるわ」

「ふん」夫は鼻先で笑う。「幾度も云ってるじゃないか。ロースクールには通わなかったし、勿論、卒業もしちゃいない。受験資格がないんだぜ。さっさと諦めてくれ」

「何とかなるわよ」と断言する無邪気な妻を冷ややかに眺めながら、夫はよろよろと立ち上がった。「無理だよ。誰もがひれ伏す日本国内とは事情が違う。忖度が効かない」

そして続けた。「こんな『拠点』はさっさと捨てて日本に戻り、召使いに囲まれて暮らそう。額に汗して働く必要などない。ボクらには、国民の血税がある」

帰国の示唆に妻は苛立ちを隠さない。夫は妙なリズムで腰を振りつつ猫撫で声で囁く。「怒っちゃ、お姫様の可愛い顔が台無しだ。さ、寝室に行こう」と、女房の尻を撫でた。

「やめてよ!」と妻は金切り声を上げて、夫の手を邪険に払う。「あなたはメディアにペテン師扱いされ、玉の輿狙いのヒモ男と蔑まれているのよ。悔しくはないの!?」

「玉の輿か、・・・うん?玉の腰かな。いや、腰のタマか。むしろ『竿に真珠』かもw」と首を捻る酔っ払いの旦那を無視して、新妻は不幸な結婚を嘆く。

「アレも嘘。コレも嘘。まるで詐欺師じゃないの。あなたのお母様だって、労災や傷病手当の公金不正受給で訴えらているわ。嫁ぎ先が詐欺師親子だなんて・・・」

「よせっ!」今度は夫が金切り声を上げた。「よすんだ!ボクを非難するのは構わないが、マミーの悪口は云うな!」と、額に青筋を立て血走った目つきで叫ぶ。

妻が涙声で云い返す。「やめないわ。お母様の周囲で親族が次々と不審死したのは何故よ!?アレも保険金詐欺なの?殺したの?答えて!答えて頂戴!」

「うっ、うるさいっ!!」、怒鳴り声と共に、夫の鉄拳が妻の顔にめり込む。グシャリと頬骨の砕ける音がして、血飛沫が瀟洒なリビングルームを真紅に染める。


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ラベル:弁護士試験
posted by yohkan at 07:02| Comment(33) | 指定なし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする